心理と行動作られた「何気なさ」
私たちの「心理」は、実に多くのモノに影響をうけている。そしてその心理(感情から思考)に従って我々は行動を選択し、決定している。
「私は周りには流されない」とか「自分の選択は自分の意志で行う」という方も数多くおられるだろう。それは大変に素晴らしいことだと思う。しかし、我々は自分の考えで何気なく行動しているようでも、実は社会生活における行動の多くはモノに左右されているのだ。
例えば、スーパーや百貨店などを訪れた際、我々は何気なく商品を見て歩くことがある。確かに店員や第三者に促されてではなく、自分の何気ない意志で商品を見ながら店内を巡回している。しかし実際の所はどうであろうか? 何気なく、特別に意識することなく巡回しているそのルートは、実際は店舗側が周到に計算した設計に沿って歩を進めているのである。
それは我々が意識的に分かるような形ではなく、実に巧妙に計算されている。例えば棚と棚の間隔が少しだけ広く作られているケースや、進ませたい方向に視野を広く開ける…などの工夫を積み重ねている。つまり、人間の心理を巧みに突いたマーケティング戦略によって、いわゆる「何気なく」は形成されているのだ。そして、店舗にある商品にもマーケティング戦略が組み込まれているのは言うまでもない。心理学を応用したマーケティング手法は数多くあるが、有名な理論の1つとしてザイオンスの法則と呼ばれるものがある。
「ザイオンスの法則」と「クチコミ」
ザイオンスの法則を簡単に説明するならば「ある対象の認知度が上がれば、その対象の好感度は上がる」といった効果のことを指す。一般的に、人は情報に3回接する事によって、その対象を認知し、7回接する事によって、商品を手に取り、購買に結び付くといわれている。これがセブンヒッツ理論である。勿論、なんでもかんでもただ露出すれば良いというものではない。時と場所を考えなければ、逆効果にもなりえる事を追記しておこう。
我々は、意識的にせよ、無意識的にせよ、物・人・空間・色・形・情報…その他多くのモノに影響を受け、その行動を決定している。例えば、元来本質的なPRであり、流行の「クチコミ」マーケティングなどは、まさに自分以外の他者によって影響を与えられた最たるモノであろう。現在、多くの調査会社のデータによると、商品の購買において何を参考にしたかとの設問に対し、6割から7割の購買者が「クチコミ」と回答しているのである。
購買のモチベートの1つにクチコミという存在がある。なんとWeb向きな流れであろうか。リアルの空間では、クチコミというのは、測れない事もないが測りづらい。しかしWebの世界では、計測が可能である。ご存知の読者も多いだろうが、アメリカでは数年前から、このクチコミ・UGCを重視する潮流(またはムーヴメント?)が起こっている。いわゆる「エンゲージメント」の提唱である。エンゲージメントとは従来のリーチ×フリクエンシー=GRP重視の広告ではなく、「いかに情報を受け取ったユーザーを巻き込むのか」というユーザーとの「絆」を重視する広告指標である。
現在の所、エンゲージメントは広告指標として、まだまだとても完成したといえるものではないが、今後はGRPと共に二本柱で広告の価値を計っていく事になるだろう。なぜなら、どちらも本質を内包する指標だからである。このクチコミにおける有用性を心理学的ワードで表すならば、「代理強化」が相応しい。
Web心理マーケティングの必要性
我々の生活は、実に多くの心理学・社会学から応用された理論と共存して営まれており、それを日常で意識的に使うか否かはともかく、Webマーケティングにおいては、是非とも積極的に応用して頂きたい。本連載ではWeb広告やWebサイト構築などのWebマーケティング戦略に心理学やその実験を応用した、Web心理マーケティングを提言していきたい。
さらに人は、その時の心理状況によって、行動を変化する。その時どのようなモチベーションであるのか、どのように誘導すべきかを踏まえ、モチベーションの最適化、つまりモチベーション・オプティマイゼーションの必要性を提起する。
体験実験1
下記に不規則な文字列8ワードが並んでいる。これを30秒程度で、順番は関係なく、できるだけ多くの単語を覚えていただきたい。
メヌイ・キケガ・トドゾ・アムソ・セヌミ・ボエグ・ラロイ・ジンゴ
結果はいかがだっただろうか? 全て覚えられた方は、群を抜いて頭脳明晰な方なのではないだろう。
さて、こういった問題を数人に受けてもらうと、最初と最後に提示した単語は概ね平均正答率が高いものの、ワード群の中間で提示された単語の平均正答率は低いという結果になる。是非とも、職場の同僚や友人達にもこの問題を出して回答してもらいたい。
このように、複数の情報の中から、態度や判断を下す時、最初に提示された情報の再生率が高い、または特に強い影響を与える現象を「初頭効果」と呼び、最後に提示された情報のそれを「新近効果」(新近性効果)という。
尚、回答の2番目の正答率が高い可能性がある。それは何度も反復して覚えようとしているが為である。
この「初頭効果」と「新近効果」は、理屈抜きにしてもWebマーケティングに携わる皆さんには是非とも再認識して頂きたい。
応用問題1 Web心理マーケティング
では、貴方がECサイトの運営に携わる立場であったとしよう。条件は以下の通りとする。
- 新商品をユーザーに告知し、販売したい
- 商品A・商品B・商品C・商品D・商品E・商品Fの告知を行う
- 売りたい順番はAが最も高くFに向かうにつれて優先順位が下がる
- 告知方法はメールマガジン内で行う
- ECサイトは6年運営しており、会員は8万人
上記の条件の場合、メールマガジン内の上から順番に商品告知をするとした場合、商品A~Fまでをどのように並べるべきか?下記よりメールマガジン内での正しい告知順を選んで頂きたい。
- A・B・C・D・E・F
- A・C・D・E・F・B
- A・B・D・E・F・C
- D・C・B・E・F・A
- B・C・D・E・F・A
さて、どの回答を選んだだろうか? 正解は「3」である。本条件下であれば「3」が一番適切な回答だといえるだろう。「初頭効果」や「新近効果」を考慮すれば「2」ないしは「5」が正解といった事になるだろうが、では、その内、「2」と「5」どちらがより正しい告知順と考えられるだろうか。思いつきではなく、根拠を持って「2」ないし「5」を選択して頂きたい。
「新近効果」とWebの罠
より正しい選択は「2」である。根拠を考えよう。何故、優先順位が高いAを前に持ってくるのか。単純な話である。メールマガジンを受け取った全員が最後まで見てくれるわけではない。メルマガの冒頭から離脱が始まるのだ。離脱されてしまうと「新近効果」は、全く機能しなくなってしまう。故に、ユーザーが離脱する前に優先順位が高い商品を我々は提示する必要があるのだ。それでは次に、比較対象を「3」と「1」に移そう。
さてこの場合、判断に悩むとは思うが、誰に向けてメールを配信しているのか? どういう人がアクションを起こしやすいのか? を考えてみて頂きたい。6年間運営されているECサイトであれば、そのサイトにはファンが育っていると考えて良いだろう。つまり、そのサイトのロイヤリティーが高いユーザーの存在である。
確かに全体の総ユーザー数に比べて、そのようなロイヤリティーの高いユーザーは一部であるかも知れない。しかし離脱せずに最後まで読んでもらえる「コアなファン」は、サイトにとって大切な顧客であり、また長期にわたりアクションを起こしてもらえる貴重な存在である。そういったユーザーに向け、「新近効果」を考慮した仕組みを取り入れるべきである。その仕掛け作りこそがプロのマーケターの仕事であるといえるだろう。
単純に、心理学の「初頭効果」と「新近効果」を取り入れただけでは、「3」の施策を行う事はできない。これは、Webマーケティングと心理学を応用して生まれる「Web心理マーケティング」だからである。
何気ない1つの選択を行わせるのは、仕掛けを作る側の努力の結晶である。プロのマーケターであるならば、メール配信という仕事をただの日常作業と捉えるのではなく、「どこに」「なにを」「何故」配置すべきなのか、日々根拠をもって業務の最適化に取り組んでいくべきである。次回は人に与える色の効果について説明致したい。
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